人生の大半を眠りの中で過ごしている。「寝坊助」「寝穢(いぎたな)い」。これらは即ち私を指すことばだ。
ところが、ある夜まったく眠れなくなってしまった。『墓場の鬼太郎』の辺りは、確かに睡魔と手を取り合いかけていたのだ。ところがそのあと、頭の10分だけと『NONFIX』を見てからがもうどうにもならなかった。慣れない不眠とどう組み伏せていいのかわからない。あれこれ手を尽くしている間、よせばいいのに「なぜ私は眠れないのか」と自己分析まで始めたせいで、ますます頭が冴えて眠れない。
ようやく不眠に勝利したのは、めざましテレビが始まるころだった。
『NONFIX』。
過日放送された大棟耕介さんのドキュメント番組である。
ホスピタルクラウンを扱うものは、どうも副題に“笑顔”が好まれるようだ。これもご多分に漏れず、『ホスピタルクラウン 〜笑顔を運ぶ赤い鼻〜』となっている。
興味深かったのは、この番組の構造が“ホスピタルクラウン活動への懐疑”を入り口としていたことだ。
演出かとも思えたが、真実味はある。
大棟さんが取材をしぶるシーンに始まり、「僕が行かないときの病院、撮ってくださいよ。全然違うから」と半ば声を荒らげるくだりが、その“懐疑”をリアルなものに見せていた。番組には収められていなかったが、恐らくは活動の価値に疑問を投げかけたスタッフへの応酬であったに違いない。
この流れが創られたものであるか否かはさておき、「ホスピタルクラウンって、ホントに意味あるの? 役に立ってるの?」という市井の声を代弁したものになっていた点には共感を覚えた。
私自身がそうだったのだ。
「なぜ病院にクラウンが?」「なぜクラウンである必要が?」――真剣にこの活動の意義を知ろうとしたとき、自然に湧いてくる疑問ではなかろうかと思う。
クラウンそのものに馴染みの薄い日本人にとっては、純粋なクエスチョンだ。
大棟耕介さんの「ホスピタルクラウン 病院に笑いを届ける道化師」はとても丁寧に編まれた本である。行間に込められたメッセージも決して少なくはない。だが、この本を何十回と読むより、本物のKさんと会う1分のほうが遥かに雄弁であったりもする。「クラウンK」と実際にふれあうことで、自ずと答えが見つかることもあるのだ。
けれども、多くの人にとってその対面は現実的ではない。
この番組は、本と実物の中間に位置していたと思う。
クラウンであることの必然性にストレートな回答を示すものではなかったにせよ、その映像は、活字では伝わりにくいニュアンスを具体的に語っていた。
小さな子どもがKさんを厳しく叱るときの声音。Kさんの到着を今かと待ち構える表情。体が弛緩していく様子。本で読んだときは少々驚いたが、取材用に台本を作って子どもたちに演技をさせる話も、実際には創作と明確にわかるようネタとして収録されているし、きっとKさんも初めからそのつもりだろう。(これは先に放送された『LINK!!』でも同様だった。)
いずれも活字では知っていたことばかりだが、動画で見ると瞭然だった。
しかし同時に、そこに語られきらぬものが存在していることにも、否応なく気づかされた。
語られきらぬもの。
それがこういうものだ、と明言できないところに、今の私は茫然と汲々と佇んでいる。
ただただ、気圧されてしまうのだ。そういう“何か圧倒的なもの”がそこにはある。
初めからそうだ。これに始まったことではない。
初めて大棟さんと会ったときはそのこわさに怯んだし、最初にメールをいただいたときは、バズーカ砲で撃たれたような衝撃を受けた。その後の波動砲レベルのメールにもノックアウトされ、今年のCLOWN!CLOWN!CLOWN!では、緊張と畏れのあまり、ついに視線を合わせることさえ適わなかった。
就職の面接でいつの間にやら立場が逆転し、面接官を面接していたこともあるような私とは思えない有様である。
この『NONFIX』も、あまりのこわさに、録画しておいたDVDの続きを見ることがなかなかできなかった。見たくて気になって仕方がないのに、再生できない。ようやくすべてを見終えたあとは、ただ一つのことばを述懐するばかりだった。
「頭に輪っかだの背中に羽だのつけた誰かが今すぐ私の目の前に現れて、『安心しなさい。この人とはもう二度と会えないから』そう言ってくれないだろうか……」
私が眠れなかった理由は、その辺りにあるのではないかと睨んでいる。その後も何度もこの番組を見ているが、最初ほどではないとはいえ、やはり何やらおそろしい。体の緊張が解けていく子どもたちとは正反対に、私は見るにつけ強張る。
ああこわいこわい。本当にこわい。
そう言いながら、でもやっぱりまた会いに行く。
ところが、ある夜まったく眠れなくなってしまった。『墓場の鬼太郎』の辺りは、確かに睡魔と手を取り合いかけていたのだ。ところがそのあと、頭の10分だけと『NONFIX』を見てからがもうどうにもならなかった。慣れない不眠とどう組み伏せていいのかわからない。あれこれ手を尽くしている間、よせばいいのに「なぜ私は眠れないのか」と自己分析まで始めたせいで、ますます頭が冴えて眠れない。
ようやく不眠に勝利したのは、めざましテレビが始まるころだった。
『NONFIX』。
過日放送された大棟耕介さんのドキュメント番組である。
ホスピタルクラウンを扱うものは、どうも副題に“笑顔”が好まれるようだ。これもご多分に漏れず、『ホスピタルクラウン 〜笑顔を運ぶ赤い鼻〜』となっている。
興味深かったのは、この番組の構造が“ホスピタルクラウン活動への懐疑”を入り口としていたことだ。
演出かとも思えたが、真実味はある。
大棟さんが取材をしぶるシーンに始まり、「僕が行かないときの病院、撮ってくださいよ。全然違うから」と半ば声を荒らげるくだりが、その“懐疑”をリアルなものに見せていた。番組には収められていなかったが、恐らくは活動の価値に疑問を投げかけたスタッフへの応酬であったに違いない。
この流れが創られたものであるか否かはさておき、「ホスピタルクラウンって、ホントに意味あるの? 役に立ってるの?」という市井の声を代弁したものになっていた点には共感を覚えた。
私自身がそうだったのだ。
「なぜ病院にクラウンが?」「なぜクラウンである必要が?」――真剣にこの活動の意義を知ろうとしたとき、自然に湧いてくる疑問ではなかろうかと思う。
クラウンそのものに馴染みの薄い日本人にとっては、純粋なクエスチョンだ。
* * *
大棟耕介さんの「ホスピタルクラウン 病院に笑いを届ける道化師」はとても丁寧に編まれた本である。行間に込められたメッセージも決して少なくはない。だが、この本を何十回と読むより、本物のKさんと会う1分のほうが遥かに雄弁であったりもする。「クラウンK」と実際にふれあうことで、自ずと答えが見つかることもあるのだ。
けれども、多くの人にとってその対面は現実的ではない。
この番組は、本と実物の中間に位置していたと思う。
クラウンであることの必然性にストレートな回答を示すものではなかったにせよ、その映像は、活字では伝わりにくいニュアンスを具体的に語っていた。
小さな子どもがKさんを厳しく叱るときの声音。Kさんの到着を今かと待ち構える表情。体が弛緩していく様子。本で読んだときは少々驚いたが、取材用に台本を作って子どもたちに演技をさせる話も、実際には創作と明確にわかるようネタとして収録されているし、きっとKさんも初めからそのつもりだろう。(これは先に放送された『LINK!!』でも同様だった。)
いずれも活字では知っていたことばかりだが、動画で見ると瞭然だった。
しかし同時に、そこに語られきらぬものが存在していることにも、否応なく気づかされた。
語られきらぬもの。
それがこういうものだ、と明言できないところに、今の私は茫然と汲々と佇んでいる。
ただただ、気圧されてしまうのだ。そういう“何か圧倒的なもの”がそこにはある。
* * *
初めからそうだ。これに始まったことではない。
初めて大棟さんと会ったときはそのこわさに怯んだし、最初にメールをいただいたときは、バズーカ砲で撃たれたような衝撃を受けた。その後の波動砲レベルのメールにもノックアウトされ、今年のCLOWN!CLOWN!CLOWN!では、緊張と畏れのあまり、ついに視線を合わせることさえ適わなかった。
就職の面接でいつの間にやら立場が逆転し、面接官を面接していたこともあるような私とは思えない有様である。
この『NONFIX』も、あまりのこわさに、録画しておいたDVDの続きを見ることがなかなかできなかった。見たくて気になって仕方がないのに、再生できない。ようやくすべてを見終えたあとは、ただ一つのことばを述懐するばかりだった。
「頭に輪っかだの背中に羽だのつけた誰かが今すぐ私の目の前に現れて、『安心しなさい。この人とはもう二度と会えないから』そう言ってくれないだろうか……」
私が眠れなかった理由は、その辺りにあるのではないかと睨んでいる。その後も何度もこの番組を見ているが、最初ほどではないとはいえ、やはり何やらおそろしい。体の緊張が解けていく子どもたちとは正反対に、私は見るにつけ強張る。
ああこわいこわい。本当にこわい。
そう言いながら、でもやっぱりまた会いに行く。
Comment
初コメントです
コメントありがとうございます
山平さん、はじめまして。
お越しくださってありがとうございます。
残念ながら、私はまだ講演会へ伺う機会に恵まれていないのですが、
クラウンマジックはきっと講演でも顕在なのですよね。
私も最初の出会いからずっと衝撃を受けっぱなしです。
それが高じて、このようなブログをつくってしまいました。。。
のちほどそちらへおじゃま致します(^^)
お越しくださってありがとうございます。
残念ながら、私はまだ講演会へ伺う機会に恵まれていないのですが、
クラウンマジックはきっと講演でも顕在なのですよね。
私も最初の出会いからずっと衝撃を受けっぱなしです。
それが高じて、このようなブログをつくってしまいました。。。
のちほどそちらへおじゃま致します(^^)
コメントの投稿
Track Back







infoseek.jp
先日、勉強会の講師で大棟さんに来ていただき講演を聞き、
非常に感銘を受けました。
ホスピタルクラウンのこともそうなのですが、考え方や
空気を変える力を目の当たりにして衝撃を受けました。
そして思わず検索してここにたどり着いてみました。
普段絶対接点のない方との出会いに感謝したいと思います。
また僕のブログにも来て観て下さいね。
瓦屋なので瓦がメインですが・・・w